2020年7月24日金曜日

R18ブログ小説 夕餉の後の夜食会 23番 大海原と海の家の飯

【R18 ブログ小説】
夕餉の後の夜食会

23番 大海原と海の家の飯
Experiences:偶然と必然の狭間に起こる、脱衣アクシデント



――――――――(1)――――――――



夏。
俺達は何をやっているんだろう――。
久々に集まったおっさん達4人は、炎天下の浜辺でぐだっていた。

珍しく、S海からの呼び出しに応え、3人は浜辺へと集まる。
時間ぴったりになると、何処からともなくS海が現れ、今日は此処で記念撮影を行う、と高らかに、かつ一方的な宣言を行う。
1度こうなると、ちょっとやそっとじゃ駄目だ、彼は止められない。
それこそ、本気で止めたいのなら、何か大きなものを犠牲にしなければ。

しかし、どうせ今日は休日。
退屈凌ぎに出て来たのだし、わざわざ本気で止める必要も無いのだ。
偶には友の酔狂に付き合ってやるのも、悪くは無いだろう。
M野からスマホを借り、撮影の仕方を教わるS海。
そして練習すると言って、もう如何程の時間が流れたのか。
扱い慣れないのか、彼はスマホを色々触っては頷き、確かめている様にも見える。
そうしている間にも、じりじりと暑い陽射しが、頭上へと昇ってゆく。
S海はスマホ持ってない、慣れていないのも仕方がない――。
「隊長、暇ぁ~!」
そう思っていると突然、スマホのスピーカーから、女の子の声が飛び出す。
スマホやパソコンで、ソシャゲを良く遊ぶU西とA林には、聞き覚えのある声であった。
勿論、キャラクター名と声優の名前まで、きっちりと思い出す事が出来る――。

おい、コレ絶対ゲームしてるだろ!

慣れてないとだけ思っていた彼等2人の胸中に、一気に疑念が噴出して来た。
何やってんだよコイツは!
と、喉から出かかった言葉を飲み込み、良く聞こうと耳を澄ませる2人。
すると、海の波音に入り交じり、板で名曲と名高いあの曲が鳴っている気がする。
そして極めつけには、おめでちとうございますだの、作戦成功ですだの、幾度も聞いて来たミッション達成時の、あの声優ボイスが、きっちり彼等2人の耳に入って来ていた。

聴いていると、自分も遊びたくなってくる――このゲームは確か、協力プレイも出来た筈。
しかし、IDが分からないから、協力プレイが出来ない。
自分達も当然スマホを持っている。
少し遊べば、暑さも紛れるだろうか、との思いで、U西は彼へと声を掛けた。
「なあ、S海。
始めたばっかりは弱くてツラいやろ。
IDなんぼや?
その気があるなら、俺らぁの高レベル部隊、貸したるで」
「ん――?
ああ、ゲストIDって書いてるな。
イケるのか?」
「それじゃ駄目じゃねーか!」
ちらりと視線を動かし、にべもなく答えるS海に、A林は心の奥底から、叫ぶ。
このゲームは、正規ID保持者と、ゲストID等の非正規ID保持者との協力プレイが出来ない。
帰ったら、ゲストIDと協力出来る様にしてくれと、要望を送っておこう――と2人は、強く思った。

「どーもどーも。
暑いでしょう、S海さん、ジュース買ってきましたよ。
どれが良いですか?」
そうこうしている内に、何時の間にか離れていた、M野がジュースを買って来てくれる。
何でも良い、と言うS海には、小さな缶コーヒーを渡す。
そして、少し離れた所に居る2人の所にやってきて、一緒に座った。
「俺達の分、ねーの?」
恐らく打ち砕かれるであろう淡い期待を持ち、話しかけるA林。
しかし、返事は予想と違って、色良い返事が返る。
「勿論、ありますよ。
そこあるんで、適当にどうぞ」
「いつもすまんなあ。
恩に着る」
礼を言いつつ、2人はペットボトルのジュースに手を伸ばす。
捻って蓋を開け、青空の方へを顔を傾けると、ジュースが口の中に落ちて来た。
喉を通り抜ける冷たいジュースが、大変に心地良い。
暑さを忘れ、生き返った気分で一息つくと、U西はS海に遊んでいいか、と問いかける。
「なあ、俺らぁも遊んどってええやろ」
「理解にもう暫く掛かるから、構わん。
が、すぐに集まれるようここに居ろ」
えぇ、と不満を漏らしかけたが、大人しく従ってしまう。
この状態のS海がどれ程恐ろしいかは、彼等は身を以て知っていたからだ。
浜辺に座ったまま、お互いのスマホを突き合わせ、通信を開始する。
「んじゃあやるか。
先ずは対抗演習からだな」
「おう、負けへんで」
ベテラン同士が良く行う、セオリー通りの開始。
そこで対話が切れ、辺りにゲームの音が響き始めた。



暑い日差し。
それはまるで、髪が焼ける様な。
だが、待つしかない――。
2人はあまりの暑さでゲームを遊ぶ気を無くし、座り込んでいた。
M野が買って来てくれたジュース等、当の昔に飲み干してしまい、無い。
どこかしら遠くで、きゃあきゃあと、女の子達が遊んでいる音が聴こえる。
それに比べて、暑い所で座り込んでいる自分達は、一体何なのだ。
お~い、何やってんだよ、こいつはよぉ。
ああ、俺達も若ければ、あの娘たちに声を掛けに行っただろうに。
何故こんな炎天下で、ただひたすらに、待ち続けねばならないのだろうか。
S海氏の、ぴこぴこゲームを動かす音を聴き、彼等は思う。
女の子達が、波間で遊ぶ楽しそうな声を聴きながら、不満そうに3人のおっさん達は座っていた。

「大体理解した――、そろそろ撮るぞ」
頭上の日が、正午の辺りまで登ろうかと言う頃、仏頂面を変えずにS海が小声で言う。
撮影の仕方を、やっと理解したらしい。
――いや、もとい、ゲームの遊び方の方だろうか。
汗だくの3人は、えぇ、今頃かよ、と疲れた声で返事を返す。
ゲームで遊んでただけじゃないのか、という疑惑の視線を他所に、涼し気な面持ちを向ける彼。
「はい、1枚行きますよぉ。
ポーズ取ってくださぁい」
突然、S海の喉の奥から、爽やか、そして甘ったるい妙な声が流れ出した様に聞こえた。
あまりにも奇妙な出来事に一瞬、目の前の人物は誰か、と思う3人。
正直な所、待ち草臥れてそれ所では無いが、S海の様子が何時もと違う。
何か予感を感じた3人は、慌ててその声に従ってしまった。
「いぇー!」
「どや、うぉお~」
「あははははは」
後で見たら絶対後悔する、そんなはしゃぎっぷりを見せつける。
やけくそ気味の糞度胸だけが、今の彼等を支え、動かしているのは一目瞭然であった。
そして、3人のおっさん達の背後で、きゃあ、と女の子達の声が聞こえて来る。
どど~ん、ざば~っと大きな波の音が続き、一瞬だが静かになり。
「ハイ、ち~ずぅ♪」
そして、新たに起きた波の音は、S海の声と重なり、波間に消えてゆく。

ピロリン♪

直後、スマホが撮影音を出し、漸く1枚の撮影が終わった。
一体何だったのだろう、気にはなるが、振り向ける雰囲気ではない。
「はい、もう1枚、行っきまっすよぉ~♪」
お前誰だ、と思わず突っ込みたくなるような声のS海に、皆空気を読んで合わせてしまう。
表情、態度、声色と、きっちり3拍子揃って、普段の彼と、余りにも違い過ぎる。
何か悪いものでも食べたんじゃあないか、といった良くない想像が脳裏に沸き起こり、暑さも相まって、彼等の正常な判断力を奪っている様にも思えた。
「これでどうや!」
「あはっあははははは」
「いぇーぃいえーぃ!」
何よりもここは暑い。
こんな所、一刻も早く離れて、冷たいジュースでも飲みたいに決まっている。
もう構うものか、撮影よ早く終われ、と半ばヤケクソになって声を上げ、彼等はにこやかに騒ぐ。
兎に角終われ、早く終わってくれ!
「だ、大丈夫?」
「えっ!?」

ピロリン♪

無心で騒いでいると、やや少しの間があって、再び聞こえた撮影音とほぼ同時に、背後で女の子達の声が聞こえた気がした。
何を言っているのかまでは、分からなかったが。
正面には、気持ち悪い程に満面の笑みを浮かべるS海しか見えない。
「はい、お疲れ様でしたぁ♪」
もう閉口するしかない程、変わり果てた彼の声。
2度見どころか3度見したが、無理して作っている様な笑顔には見えず、彼等は絶句したままである。
兎に角、撮影は終わったらしい。
はぁ~やれやれ、やっとこの炎天下から解放される、という喜びが多少沸いて起きた。
「もう、やだあ~!」
ばちゃりと波の音が聴こえる。
それも、押し寄せる次の波の音の狭間へと、混ざり込む様にして消えてゆく。
女の子達が何か言っているようだが、S海がそれを意識せずに、向こうへすたすたと歩いて行ってしまう。
普段の彼に、もう戻ってしまったらしい。
おい、待てよ、と言いつつ3人はその後を追いかける。
そして、どどーん、ざあぁ、と大きな波が、そしてもう1つ、きゃあと叫ぶ声が、再び砂浜の波打ち際へと届いた。



――――――――(2)――――――――



撮影が終わると、そのまま海の家へと赴き、焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、ラーメン、ライスカレーを注文する。
S海は自分から珍しく酒を飲みたいと言い、ビールとカップ酒を追加注文を行う。
そして、椅子に座ると、黙したままの彼を尻目に、何時も通りの雑談に花を咲かせ、注文の品を待つ。
ビールとカップ酒は、思いの外早く届く。
M野は注文を済ませた後、トイレに駆け込んでいた。

「わざわざ撮影したのに、感謝の一言も無いとはな。
嘆かわしい」
喉が渇いていたのか、ビールを一息に飲み干し、カップ酒を舐める様にちびちびと呑りながら、S海が言う。
それを、嫌味と捉えたのか、耳聡いU西がすぐさま突っ掛かる。
「あれだけ待たせて、不満を言う側とは、実に良いご身分やのぅ?」
「まあ、何かあったのかもしれんし」
A林は小声でU西の耳打ちし、S海のフォローに回った。
食べるのが早い彼は、届いた全ての品を平らげた後、追加のラーメンを待っている。
それでも、誰も居ない座席へ足を乗せ、行儀の悪い姿勢でU西は不平を漏らす。
「そんな事言ったかてなあ。
俺らぁ、だいぶ待たされたんやでぇ。
はぁ~暑っついわぁ、汗だくやわ。

誰かさんの所為で、なあ」
当のS海はと言うと、何時もの仏頂面で彼の言葉をスルーし、届いた食事に手を伸ばした。
焼きそばを1本ずつ吸い込みつつ、カップ酒を1口。
そしてスマホのカメラで何かを覗き込み、次に、たこ焼きを頬張り、ビールで喉の奥に流し込む。
食べ終わると、再びスマホのカメラ機能で、海の方を見ている。
お好み焼きをアテにカップ酒、ライスカレーをアテにビールを飲み、そうしながらも、スマホのカメラ機能を使い、じっと海の様子を見ていたS海が、唐突に立ち上がった。
そして、がばがばと残りの食事をかき込み、酒を飲み干すと、M野から借りっぱなしだったスマホを、元の持ち主へと手渡し――。
「ちょっと行ってくる」
どうもどうも、とにこやかに受け取るM野に、一言告げると、浜辺へ向かって歩き出す。
食事が遅い彼が、急いで食べるとは珍しい。
先程の妙な態度と言い、今日は珍しいものをよく見る日だ。
一体何処へ行こうと言うのか。
のこのこと歩いて行ったS海は、暫くして浜辺へ辿り着くと、そこを歩く水着を着た、若い女の子を呼び止め、声を掛ける。
「おっ、ナンパかいや?」
彼の行き先を目で追っていたU西は、面白そうに声を上げた。

その声にM野、A林の視線が集まり、S海の姿を追う。
「えっ、どこですか?」
「あそこやで、あそこや!」
「あッ!
居た居た、アイツ何やってるんだ。
ナンパ成功したら俺にも紹介してくれんかな」
他力本願が目立つA林に、2人がくすりと笑う。
S海がこの場に居たのなら、きっとこう言うだろう、欲しければ自分で取って来い、と。
やがて、様子を窺っていたU西が、賭けを提案する。
「なあ、どっちか賭けへんか?
俺は失敗に万券1本、張ったるでぇ。
どや、大盤振る舞いや!」
「俺も。
俺達の失敗しろ念力が届くから、上手く行くと思えん」
根拠のない理由で、A林は失敗する方を選んだ。
それを聞いたU西は、腹を抱えてその通りや! と爆笑を始め――。
「うーん。
じゃあ僕は、どっちでもないに賭けます。
イーブンでもタイでも良いですけど」
続いてM野が控えめに申し出、賭けは成立する。
彼等がこうしている間にも、S海と女の子は、あちらこちらを指差し合い、何かを確かめている様にも見えた。
暫くは身振り手振りで、何やら意思の疎通を図っているのか、説明してる感じの様子が伺えたが、何をやっているのかまでは、こちらからは見えず、その意図は不明。

やがて、彼は自分を指差すと、次に海の中の方を指差し、最後に女の子を指差す。
その様子は、彼等3人の目には、自分と付き合って、一緒に泳がないか? というサインに見えた。
「うわ。
アイツ、やりおったでぇっ」
早口で、悔しそうにU西が叫ぶ。
S海の目論見は失敗するか、と思いきや――。
女の子は頷き、そして彼と彼女は、同じ方向へと歩き始めたのだ。
その様子は、失敗して欲しいという、彼等2人の希望を見事なまでに粉砕する。
「あっ、せ、成功か?
くそ、くそっ、俺も付いて行けばッ!」
付いて行っても、どうなるものでも無い事を知りながらも、悔しがるA林。
しかし、付いて行っていれば、一緒に泳げたかもしれないという念が、脳裏にこびりついて離れない。
今からでも間に合うか?
そんな気持ちが一瞬、胸中に芽生える。
「何か、違うみたいですねえ。
何してるか、後で聞きましょうよ」
しかし、思っていたのと、違う事になりつつある現状に、M野はのんびりと答える。
S海の方が突然駆け出す――駆けると言っても、スプリンターの様な格好良い前傾姿勢などではない、どたばたしている、れっきとしたおっさん走りだ、その速度は言わずもがな――と、浜辺から海へと入り、続いて、駆けて来た水着の女の子が、彼に続く。
何かを言い合いながら、膝が浸かる程の場所まで進み、彼等は海の中で何かを拾うと、短い間話し合い、その場で別れたようだった。
それっきり、彼ももう別れた女の子に、関心が無いような素振りを見せ、3人の居る海の家の方へと、その足を向ける。
「何や。
フラれてビンタでもされたら、ええ話のタネになったんやけどなあ。
これはアカン、詰まらんでぇ」
想像していた程面白くない展開に、U西は舌打ちを漏らす。
しかし、大どんでん返しが待っている等、この時の3人は誰1人思ってはいなかった。

「あっ!?」
無風。
このまま何もない、と思われたが、その時、何かに気付いたS海が振り返る。
3、4人の若い女の子達が、大きな声で何かを伝えながら、彼の方へ駆けて来るのだ。
やがて見知った姿のおっさんを、女の子達が取り囲む――これは何たる事か。
そして、浜辺のS海へと、お辞儀を何度も繰り返す。
突然の信じられない出来事に、3人は唖然として黙りこくっていた。
更に、女の子達は彼の手を取ると――あろう事か、先導して何処かへと連れて行ってしまう。
状況が分からない彼等は、ただただS海が姿を消すまで、茫然と見ている事しか出来ず、今となっては阻止する事も叶わない。
浜辺に残った彼、彼女等の足跡は、強い風に吹かれ、その痕跡を幻の如く消しさり、先程の出来事を、実は夢だったのではないか、と思わせる。
「な、何やったんや、アレは……。
俺は納得いかへんでぇ」
だが、答える者はおらず、ただただ波の音だけが、辺りに満ちていた。
皆が絶句する中、U西の独り言がポツリと、海風に流されてゆく。



やがて、とぼとぼと浜辺を歩き、S海が戻って来る。
待っていた3人は、彼が戻って来る迄に、会計を済ませた後だった。
「すまん、待たせたな――会計は?」
「もう済ませたよ。
何してたんだ?」
「オンナノコと何しとったんかのう?
ナニか? ナニしとったんや?
オラ、答えんかいや」
A林を押し退け、見る限りスケベオヤジそのもの、といった風体で、U西は帰って来たS海に詰め寄り、嫉妬の視線を向けて吠え付く。
その言葉遣いや態度は、ぶっちゃけセクシャルハラスメントで訴えられても、まるでおかしくない。
オフィス仕事なら、それは一発でアウトだろう、色々と。
「その事か。
ここじゃあれだ、戻ってからにしろ」
公共の場と言えども、まるで変化の無い、何時も通りのU西の扱いに慣れているのか、彼はにべもなく軽くあしらう。
S海が、このような態度を取る時は、これからの会話に、イリーガルな内容が含まれている時だ。
大きな声で話そうものなら、今後1年は極秘エロ話から梯子を外される。
流石にその様子を察し、セクハラオヤジと化した、いや元からそうである彼は、舌打ちを鳴らして黙り込む。
「全くお前は。
ホンマええご身分やで。
後でとっぷりと、エロ話させたるからな」
それでも不満たらたら、といった面持ちを崩さず、U西は宣言する。
S海はその言葉に、にやりと笑みを返しながら呟く。
「まあ、普段のエロ話では無いが、エロいものならあるぜ。
黙って見てな」
この態度、本物だ――。
自信ありげに語る彼のの一言に、期待を持ったのか、A林が嬉しそうに乗って来る。
「おっ。
それは俺も期待して良いのか!?」
「まあ、少なくとも――。
お前等は楽しめるだろうぜ」

やがて4人のおっさん達は、M野の車に戻った。
夏の炎天下の中、長時間放置された車の中は、相当に蒸し暑い。
窓を開けて、エアコンを最大風量で運転という愚を、何の気なしにやってしまう程には。



――――――――(3)――――――――



乗り込んで何時ものポジション、窓を閉め切り、涼しさを取り戻してから彼は、開口1番にこう告げる。
「撮った写真に、面白いものが写ってる。
皆で見てみたらどうだ?」
面白いもの、とは何だろう、写真だろうか。
何かをぼかす様な言い回し。
この男がこういう言い方をする時は、何かあるに違いないのだ。
へぇ? と訝しんだM野が、半信半疑、返却されたスマホをいじり、写真が入っているフォルダを開く。
新しく作成された、日付の新しい画像ファイルを開くと、そこには水着が脱げ、半裸となった、年頃の若い女が写されていた。
これはあの時、後ろ側に居た女の子達の1人だろうか。
「おおっ、こ、これはあっ!」
少し遅れて、車内に3人の声が同時に響き渡る。
眼福――目の保養――心の洗濯――。
そんな言葉が、3人の脳裏には幾度も浮かんでは消え、消えては浮かんだ。

青い空、白い雲、そして燦然と輝く太陽。
楽園だ。
そこに写し出されていたのは、楽園。
眩しい。
何が眩しいのか?
太陽よりも、光を反する海面よりも、宙に浮くレンズフレアよりも、何よりも。
女体そのものが、そのどれよりも眩しく感じられる。
今、我々は強く感じ、視る事が出来ている筈だ――スマホの向こうの、楽園がはっきりと。

写っていたのは、明るい色をした髪の長い、可愛らしい娘。
それは地毛か、それとも染めているのだろうか。
頭の両サイドをリボンで留めており、その事がより一層チャーミングさを、引き立てているように感じた。
髪の下には、整った顔立ちが伺える。
細い首がそれを支え、バランスの取れた顎のラインが、特に可愛らしさを感じさせ、特に器量良しと言う言葉が似合う。
その艶やかな瞳は大きく見開かれ、1点へと視線を集中させていた――そう、紐が外れて波間へ浮いている、下側の水着へと。
自らの無防備な下半身を察したのか、頬は朱が差し、羞恥に彩られていた。
実にそそる表情だ――こんな写真、頼んだってなかなか撮れないに決まっている。

彼等は学校の制服には詳しくとも、水着の種類は知識が追い付かず、今ひとつ良く分からない。
シックな色味の、ひらひらした布切れ。
その布切れが、日焼けしていない肌に、ぴったり似合っているような気がする。
ひだの様なものが、沢山付いた水着が、今の流行だろうか。
そしてそれが、大胆にもずり下がり、隠すべき部分が陽の下へと曝け出されていた。
柔らかく、掴み甲斐のありそうな、たわわに実る大きな果実。
語るまでも無く形の良い、そして眩暈がする程見栄えのする、大きく隆起した胸の上、そこには小さな桜色の突起が、ツンと上向いている。
何と見事な育ち具合の乳房であろうか。
元から大した事が無い、実はパッド入りだった、等々憧れていた巨乳アイドルの、豊胸手術の噂。
汚れた噂話ばかりに満ちるこの世界で、市井にこのような娘が居ようとは――目の当たりとするその事実に、3人は感動すら覚えていた。
作られていない、手を加えられていない、ごくナチュラルの芸術品。
そんな単語が、脳裏にぽつりと浮かぶ。

続いて、括れた腰。
程良く引き締まった腹部は、明らかに自身のそれと、どうしようもない程の違いが浮き出ており、嫌でも世代の差を意識させられる。
肩幅とほぼ同等と見える腰回りは、大きな臀部を想像させるには、十分過ぎる程の迫力を備え、写真として眼前に君臨していた。
惜しむらくは、腰下がギリギリ、海面に浸かっている事だろうか。
「ホラ。
肝心な所が、海面の反射で見えねぇんだよ。
惜しいなあー」
「あー、ホントだ。
惜しいですねえ」
それを見たA林とM野が、名残惜しそうな声を上げ、残念がる。
光が所々で乱反射し、1番見たいと思える部分が、隠れてしまっているのは否めない。
見えぬ部分は、U西も惜しんでいる様子だった。
「もうちょっと上から撮れたらええんやけどなあ。
まあ、この辺り高台無いし、無理やのう。
ホンマ、惜しいわ」
何度も舌打ちする音が車内に響き渡る。
そして、見えぬ秘められた花弁より、すぐそこに見える実の方、自然と目立つ胸の方へと、彼等3人の視線は集まってゆく。
それは花より団子の方が良い、とばかりに。
見ごたえある女体を眺めてゆく内に、何時の間にか、舌打ちの音は鳴り止む。

若々しい艶と張りのある肌とは、こういうものを差すのだという事を、久々に思い出す事が出来た気がした。
何よりも、その滑らかな肌を伝う、大粒の水滴。
頬や腕に長い髪の1部がへばりつき、雫を滴らせているのが良く分かる。
その通り道は、色気を感じる膨らみや、劣情を催す落ち窪んだ部分に沿って、表面をまるでいやらしく、撫で擦っている様だ。
こうまで濡れた女体が、これ程までに美しく、そして艶めかしいと、そう感じる日が来るとは――。
艶やかな長い髪、白いうなじ、目立つ大きな胸、しなやかな腕、窪んだ脇の下、括れた腰、下腹、そして、海中に透ける脚。
見知らぬ娘の体を、眺めているだけで、この体を自由にしたいという獣欲が、みるみる内に下半身に充血して行くのが分かる。
こればかりはやむを得ないだろう、我々はモテない只のスケベオヤジで、性欲を常に持て余しているのだから。
若人以上にがっつきたくなる気持ちも、ここは1つ理解して欲しいものだ。
彼等は知らず知らずの内に、何度も生唾を飲み思う様、普段は日の目をる事が無い部分へと、無遠慮に執拗に、視線を這わせる。
そうそう、こういうので良いんだよ、こういうので――。
エロ過ぎず、また隠し過ぎていない上に、退屈な生活を、全く脅かす事の無い範囲で起きた、刺激的なハプニング。
彼等3人は、思わず感慨深い溜息を吐きそうになった。



そして、暫し無言の時が流れ。
車内には荒い鼻息が満ち、そして、ぎとつくような脂っこい視線が、スマホの画面に集中している。
やがて彼等は、眩しそうに目を細めた後、何度もスマホの画像と、S海の方へと視線を投げかけそして、これを撮るのに何があったのか、と固唾を飲んで、彼の言葉を待つ3人。
珍しく空気を読んでくれたのか、撮影者たるS海は、ゆっくりと語り始める。
「大きな波が来てな、水着が外れたんだよ。
お前達を撮影した時に、偶々写り込んでたんだ。
それで、という訳じゃないが。
海を見てたら、1人だけ浜辺に上がない娘が居たからな、もしかしてと思って、海の上を探したんだ。
するとな、波間を布切れが漂ってたのが見えたから、外れた水着が流れたな、と予想してな。
さっきのはそれを、拾うのを手伝いに行った訳だ。

昔から思うが、海やプールに来ると、こう言うの多くないか?」
「いや。
そういうんはな、お前だけやと思うで」
最後の一言に、すかさずU西の妥協の無い、厳しい突っ込みが訪れた。
何故自身の前には、このような事象は1度たりとも、訪れてはくれないのだろう。
彼はその現場に居合わせた事もあり、昔からS海の体質(?)を臍を噛む思いで、眺めていた事もある。
「そうか?
昔から、水着流されたって女が多くてな。
もう見付からないだろう、というタイミングで、海の底に沈んだヤツをな、偶然踏んで見つけた。
一瞬、クラゲかと思ったが、それが流れた水着だったんだ」
「うん。
とりあえず、お前が起こり得る全てのエロ現象に、とても愛されている事だけは、良く分かったよ」
とても良い笑顔で、A林が述べる――右手は勿論、握り拳で親指を立てていた。
何とも素晴らしい女体を見る事が出来、気分は上々。
彼は、現場に居合わせた事こそ無いものの、S海のその伝説を語り出せば、枚挙に暇が無い事を知っている。
「水に潜って息継ぎに顔を出すだろう?
そしたら、脱げてて流された女用の水着が、頭に引っかかってる。
お前達もそれ位、1度や2度はあるよな?」
「いやー。
若い頃は知りませんがね、今でもそっち方面現役なのは、S海さんだけでしょ」
少なくとも僕が知る限りでは、と悟りを開いた僧の様な面持ちで、M野はしんみりと語った。
女が肌に纏っていたものが、放っておいても自然と寄ってくるなど、何と羨ましい事か。
彼はS海の身の周りで発生する、そんな出来事に、すっかり慣れてきている自身を、はっきりと知覚している。
今日の事もそうだ。
冷静に振舞っているように見える皆は、内心はどう思っている事やら。
だが、今はスマホで写した、写真の女体に、3人のおっさん達は夢中になっていた。
当然ながら、話題も視線もそれに集中する。



――――――――(4)――――――――



大波に打たれ、濡れたままビーチボールを拾いに行く。
そして、今更ながらに自分の状態に始めて気が付き、固まってしまった――その様な印象を受ける。
正に、その一瞬を切り取ったかのような写真。
これこそ炎天下の中、長時間待った甲斐が有った、というものだ。
今、彼等は延々と過ごした無為な時間が、やっと報われた、そんな気分で満ち足りている。
M野が見終われば次はA林、A林が見終われば次はU西、U西が見終われば、次はM野が再び。
奪い合う様にスマホを盥回しにしつつ、彼等3人は滅多に拝めない、みずみずしい女体を愉しむ。
「いやあ、たまらん。
これはどちゃしこやでえ
時折これがあるからこそ、この男との付き合いは止められんのや」
今はS海の隣、U西の手にM野のスマホが収まっている。
彼等はもう画面の向こう側で、そういった物を見るのが、当たり前となりつつある時代。
しかしそれは、あくまでネットで拾って来た物であり、見ても良い様に、見られても良い様にと、創られたシチュエーションの物でしかない。
ディスプレイやカメラ越しにですら、100%混じりっ気無し、天然の裸体を見る機会など無かった。
その事も手伝ってか、興奮する3人のおっさん達の為に、車内の熱気が1段と上った気がする。
ましてや、服が脱げる等と言うハプニングは、彼等の中では、いや世間一般では、漫画やテレビドラマの中でしか、起こり得ない架空の世界の話。
それが今、別世界の入り口が、れっきとした証拠が、彼等の目の前にある――興奮するな、と言う方が無理だ。
普段であれば、違う世界への入り口がスマホにある、そんな事を言われたら、真顔で訝しげな顔をする所だろう。
だが、今の彼等なら、きっと満面の笑顔で信じるに違いない。

「いやあ、流石ですS海さん。
角度、距離、焦点、全てが完璧じゃないですか」
U西の手からスマホを取り返しながら、M野は語った。
普段から、この男はアイドルのお宝画像を収集しているだけあって、写真写りには人一倍五月蠅い所がある。
その彼が完璧だと言うのだ――その写り映えたるや、どんな品質かは想像に難くない。
だが、若干はみ出てしまった部分を差して、S海は残念そうに言う。
「もう少し早く気付けば、もっと合わせられたんだ。
これが精一杯だぜ」
「いやいや、これはもう上出来の範囲だろ。
俺達だけじゃ、1日中探したってこんな状態の女の子、絶対に見つけられないよ。
そもそも服や水着は、自然に脱げないからな、コレ絶対、S海固有の必殺技だよなあ」
言葉を引き継ぐ様に、遠目でスマホ、特に胸の辺りを眺めながらも、A林が続け、彼がそこまで言うと、車内に笑いが満ちた――ああ、その通りだ違いない、と。
そして、普段見れない態度のS海の様子にも触れ、誰かと思ったぞ――と笑いがさらに広がった。

一頻り笑い終え、静かになった車内で、A林が改めて語り始める。
「俺達はな、お前の体質が羨ましい、非常に羨ましいんだ。
はあ~ぁ、若い娘は皆可愛いって、小さい頃大人連中から聞いて来たけどな。
コレ、分かる気がするよ。
今になって分かるって事は、俺も歳取ったって、事なのかなあ」
「水を差す様で悪いんやけど……。
コレ、盗撮にならんかなあ?」
そこまで来て突然に、腰砕けの姿勢を露わにするU西。 
この男は普段威勢は良いのだが、いざとなると弱気の虫が鳴き始めるのを、この場の皆は知っていた。
ふむ、と唸った後、隣のS海が語り出す。
「それは――違うな。
俺はお前達の写真を、撮ろうとしていただけだぜ。
やけに時間が掛かったのは、スマホの扱いを知らんかったからだ。
撮った写真ファイルを良く見てくれ。
お前達の写真もあるだろう? ちゃんと撮ってるんだぞ。
よく考えても見ろ――。
そんな写真、偶然以外にタイミング良く、撮影出来るものなのか?

偶々写り込んだんだ、偶々な」
最後に1拍空けて、印象的な言葉を投げかける。
慌ててファイルを見るが、若気の至りではもう済まされないであろう、こっ恥ずかしいポーズをしっかりとキメた、3人のおっさん達の写真も、きっちり撮影されていた。
――確かに聞こえて来た撮影音と、写真の枚数は合っている。
そして彼は言った、それらは全て偶然なのだ、と。
どこにでも居そうなおっさんが、若い娘に白昼堂々と写真撮らしてくれ、等と言ってしまえば、訝しがられるだけならまだマシな方だ――職業がカメラマンと証明出来なければ、それなりの高い金を払い、撮影する羽目になるか、瞬く間にK察を呼ばれてしまうだろう。
そうなっては元も子も、もといたまったものでは無い。

次に、あの娘達をS海が呼んだのなら、最低でも後で挨拶位はするだろう。
それがまるで無い、という事は、彼とは全く無関係の女達である事は、明らかだ。
位置、角度、そして、光源。
素人撮影ながらにしても、見事なまでに、美しく眩しく煌めく女体が写り込む。
女の子達の、慌てふためく声が聞こえていたのは、僅かな時間だった。
あの短い期間で、こんな綺麗に、ピントが合わせられるものなのか。
元からあの距離に合わせていなければ、写す事は困難である事は容易に想像出来る。
しかし、あの娘たちが海に現れるより早く、自分達が陣取り、撮影を行おうとしていた筈だ。
彼女達は、移動してきた事になる。
わざわざカメラを構えている所へ、自分から映りに来るわけでもあるまい――しかも、ほぼ裸に近いような格好で。
黙り込んでしまった3人に、S海の話が続く。
「写真をネットに上げたり、それをネタに脅したりしなければ、良いんじゃないか。
流出が気になるなら、今画像を消してしまえばいい」
「い、いやその、けけ消す、いや脅すなんてありえへんやろ」
「そうだよ、そういうハナシは、エロゲーかエロラノベの世界だけにして欲しいね。
消さないのは俺も賛成だ」
脅すだなんてとんでもない、こんな眺めが視れただけで、3人のおっさん達の心は、澄み切った青空の如く晴れやかなのだ。
U西とA林がすかさず否定する。
普段は、そっち方面の話題が多いくせに、いざとなると小心者のこの2人は、その様な行動は出来ない。
当然ながら、善人の圧縮ボンベの様な性格、と評されるM野は言わずもがな。
この中で1番その様な事をやりそうなのは、彼しか居ないのだが――。
だが彼等が知る限りのS海は、理性の塊だ。
一時の欲望に動かされて、大事を仕出かした記憶は、3人の中にはコンマ1秒たりとも無い。

そして静かな車内に、更に彼の声は続く。
「そう、これは誰がどう見ても、単なるハプニングだぜ。
もっと気を楽にして、楽しんだらどうだ。
どうせ偶々写真に写り込むなら、色気の無い心霊写真より、こっちの方が良いだろう?」
確かに――、色んな意味で確かにその通りなのだ――彼の言う通り、これは、矢張り偶然なのか。
しかし、それならあの待たされた時間は――?
だが、再び黙してしまった他の3人は、それは必然であったような、そんな感覚に囚われ続けていた。



「あ、あの。
ゴチです!
良かったら、またお願いします!」
時は夜間、深夜の直前と言える時刻。
別れ際、M野が何時もの3割増し、いや5割増しの笑顔で、撮影者たるS海に声を掛ける。
「ご馳走になったのは俺の方だよ、有難う。
まあ、機会があれば、またな」
口端をニヤリと笑みの形に吊り上げ、立ち去るS海。
手に下げたコンビニ袋には、3人が買い上げた酒類の缶やツマミがこれでもか、と詰め込まれている。
もう帰ると言う彼に、無理を言って付き合わせ、昼間の不満は何処へやら、今日の礼代わりにと手の平を返し、だいぶ飲ませた筈なのだが、彼の足取りはしっかりしていた。
相も変わらず、酔っているのかどうか、自身の申告以外に区別は付かない。
しかし、S海は普段と変わらない様子で、去って行った。

「それじゃあ、僕達も帰りましょうか」
S海を見送った後、上機嫌のM野はにこやかな声で振り向く。
それもその筈、撮影したスマホは彼の物――つまり、何時でも、昼間偶然撮影された女体を、楽しめてしまう立場。
余りの嬉しさに、パスワード付きのお宝画像フォルダに、既に移動させているのだ。
愉悦の面持ちでM野は、車のキーを捻ろうとするが、すぐに待ったが掛かる。
「その前に、なんやけど」
「俺にも、その写真分けてくれ」
息を合わせたかの様に言いつつも、U西もA林もそっとスマホを差し出し、M野に画像データをせがむ。
その楽しみ、俺達にも分けてくれと言わんばかりに。
「良いですけど。
その前に賭けの清算ですよ――、確か、浜辺のナンパで賭けてましたよね?
どちらでもない、イーブン、僕の勝ちです」
快く承諾する、M野の満面の笑みが、更に深くなる。
こと、賭け事に関しては、この男は滅法強く、そしてその取り立ては容赦が無かった――。

今日も何気ない様子で会合を終え、皆帰ってゆく。
……平穏だが、退屈な日常へと。



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