2020年1月10日金曜日

R18ブログ小説 夕餉の後の夜食会 2番 深夜ラーメンとMMORPG

【R18 ブログ小説】
夕餉の後の夜食会

2番 深夜ラーメンとMMORPG
Experiences:何処かの姫君と黒騎士様、そのチャH丸見えですよ



――――――――(1)――――――――



夜、食事時を過ぎた深夜のラーメン屋に、中年男の一行が現れる。
一人が煙草を吸い終えるまで、灰皿の前で待ち。
煙草を吸い終えた後、ぞろぞろと店内へ足を進めた。

――ピンポーン ピンポーンぽぽーん ぽぽー

センサーに反応して、店の奥まで音が響き渡り、暇そうに会話していた、店員がやって来て人数を確認し、座席へと案内する。
時間も遅いのか、店内に客は少ない。
厨房に出入りする従業員用の通路で分かれ、3つ程に区切られたカウンター席、そのパーテイションを贅沢に1人1つ使用する、と言った具合にまばらな客が座っているだけであった。




人数を伝えると、店員はにこやかな笑みで座席へと案内する。
所狭しと置かれた席の間を縫うように、中年男が列をなし、店員の後を追う。
座敷席に案内された4人の中年男共は、案内を終えた店員に1人1人丁寧に会釈する慇懃な態度とは裏腹に、座席へ上がり込むと、我が物顔でどすどすと座り込んだ。
「いやあ、夜中にラーメンなんて食べるから、中年太りが進みますね」
「とは言えど、美味いからなかなか止められん」
「ま、まあ、そうやな。
えっと、S海さんや。
まあ、一杯飲ってくれや」
酒を勧める事となったU西の脇を、冷や汗が一滴落ちていく。

S海は酒が入るとやや口が滑りやすくなる気がする。
勿論、幾ら飲んでいても彼が機密と決めている事は、絶対に教えてはくれないが。
内容には、通常経験出来ない様な、言わばラッキー(スケベ)な内容も、かなり含まれていた。
そのド助平な話を、酔わせれば聞けるのかどうか。
今日はその実験の一環だ。
飲む、と言うか飲ませるのは1人だけだし、店でも酔って騒がなければ大丈夫だろう。
バレてへんバレてへん、と彼は心の中で念仏の様に繰り返す。
「……、――ん。
まあ良いんじゃないか」
辛い物と酒好きな事だけが分かっている彼は、軽く鼻を鳴らし、今回珍しく了承した。
第一関門は、クリアしたと言えるだろう。

先ずS海の分の瓶ビールを1本頼み、それから話し合ってオーダーを取る事とする。
皆が迷っている間、高菜と漬物を肴にビールが一瓶、空になった。
テーブルの隅に置いてあった七味唐辛子を、わざわざ振って食べていたが、美味かったのだろうか?
もう見慣れた彼特有の食べ方を横目で見ながら、ああでもないこうでもないと、自身が食べる訳でもないのに、他者のメニューにも口出しし、騒然としたメニュー選びもやがて終わる。
遊んでないでそろそろ注文しよう、と言う話になってから、再びひと悶着を起こして笑い合うと、ブザーのボタンを押した。
テーブルまで訪れた店員に、追加でもう一本、ビールをを頼む。

そして、僕が最初に、と遠慮がちにM野がオーダーを通す。
味噌ラーメンと餃子のセットを伝える。
彼は流行りのダイエット法を試している、と云い、ご飯系統は頼まなかった。

続いてU西は迷わず、好物のとんこつ醤油ラーメン大盛を頼む。
余程腹が減っている時以外は、サイドメニューは頼まない。
今回も恐らく、麺だけ食べてスープを残すという、豪快な食べ方だろう。

醤油ラーメンと唐揚げと炒飯のセットを告げるA林。
体の大きい彼は、全てが大盛り。
味には特にこだわりが無いらしく、スープの味決めは店員が来てからも迷い、悩んでいた。

最後に伝えた注文は、塩ラーメンと餃子、明太子ご飯。
米が好きなS海らしいオーダーだ。
辛党の彼は、餃子のたれ代わりに、ラー油に餃子を浸す準備を熱心に整えている。



やがて、ラーメン鉢とサイドメニューが載ったトレーが、テーブルの上に届けられた。
4人分の料理が並んだが、6人掛けのテーブルは狭くは感じない。
逆に、座席部分に所狭しと並んでいる中年男たちの方が、狭苦しそうに感じられる。
「おう、揃ったな」
「食うか」
皆の料理が揃った事を確認すると、一斉に箸を伸ばす。
れんげでスープを何度も掬い、その味を堪能する。
野菜とチャーシューを、麺と共に掬い上げ、大口を開けて啜り。
何よりも肉だ、と真っ先に大きな唐揚げを箸で掴み、一息で齧り付く。
小皿の上になみなみと注がれた、たっぷりのラー油に餃子を浸し、辛子明太子と共に米飯をかき込む。
もう深夜だと言うのに脂ぎった汗を流し、男達は黙って麺をずるずると啜った。

半分程食べた時、コップに新たなビールを注ぎながらS海が意見を出す。
彼は注文するまでに1本、そして食べながら1本の計2本、瓶ビールを空にしている。
そして今、追加の瓶ビールを注文してからやや時間が経ち、漸くもう1本が手元に届いた所だ。
「ここのラーメン、割と美味いな」
「そうですねえ、コクと深みがあって。
あーあー、S海さん。
手酌なんかしないで下さい。
僕が注ぎますよ」
「おう、漢は黙ってとんこつ醤油大盛りやで。
それとお前なぁ、手酌はするもんとちゃう、って毎回言うとるやろがい?」
「俺はな、お前等が食ってる最中に、自分の都合で注げとか言いたくないんだよ。
だからいつも、手酌してるんだ、と前にも言った筈だがな。
俺の記憶違いだったか?」
「ああ、確かにそんな事言ってましたね」
「そんなん知らんわ。
手酌させたらアカンのが、この国のルールなんやで。
そんな事されたらな、俺等が気ィ遣こてまうやろ?
お前の方こそ、そろそろ覚えんかいや。
なあ、A林」
「ハハッ、S海らしいな」

S海が会話の為一気に飲み干し、空にしたコップに、笑いながらビールを注ぐA林。
気遣う意味を理解したのか、普段は断るS海も、コップを差し出して黙って受け取る。
それをまた一息で飲み干すと、勢い良くラーメンを啜り、餃子と明太子を米飯の上に乗せ、口に運ぶ。
置かれたコップに、合いの手を入れるように、M野がビールを注ぐ。
出汁の効いた塩スープを飲み、チャーシューを齧り、注いでくれたビールを飲む。
何時の間にか3人はほぼ食べ終え、後はS海を待つのみとなっていた。
「何時も食うのが遅い俺にすまんな、ありがとう」
「なんや、かめへんかめへん。
俺等友達やろ?」
次は俺の番、とばかりにU西は瓶を取り上げ、空になったコップへと翳す。
しかし、ビールは瓶から2~3滴、コップにぽたぽたと垂れていくのみ。
友に注がれ続けたビール瓶は、既に空となっていた。
「おっ、もう空やんけ!」
彼は片手を挙げると、店の奥へと威勢良く大きな声で追加オーダーを出す。
「すいませーん!
瓶ビールもう1本追加で!」



食事が済んだ後も、暫く他愛もない話に花を咲かせていた4人だったが、そろそろ出よう、と言う話になる。
時刻は22時を回ろうとしていた。
瓶で4本、飲ませる事に成功したが、当の彼はあまり変化が見られない。
「おう、大丈夫かいや?」
U西が心配そうに聞いたが、彼の調子は相変わらずだ。
何が違うというのだろうか。
見付からない間違い探しの如く、あまりにも代わり映えしないその様子を見、3人は不安を覚える――。
「――ああ、すまん。
問題無い。
一寸酔っちゃいるがな。
……その様子じゃ、エロい話が聞きたいんじゃないのか?
店の中で騒ぐのもアレだ。
クルマに戻ろう」
何時もと全く変わらない様子で、表情を変えずさらりと言うS海。
どうやら、目的はバレバレであったらしい。
支払もせめて、企み事があって飲ませてしまった、酒手位は御馳走しなければと思ったが、何時も通り彼は、4本の瓶ビール代を含め、車を出したM野の分を含んでの料金を差し出し、きっちり割り勘にされてしまう。
本当に、この男は酔っているのか?
疑問が三人の胸中を占めたが、結局の所はどうなのか、見極める事は出来なかった。



――――――――(2)――――――――



店を出ると、A林が彼の姿が見えない事に気付く。
「あれっ?
S海、どこいった」
薄暗い闇の中、慌てて3人は辺りを見渡していると、突然、チャリンチャリンと小銭を投げ捨てるような音が、駐車場に鳴り響く。
当のS海は少し離れた店の壁際にある自販機で、飲み物を買おうとしていた。
ぷぴぴーごとん、と自販機は鳴り、後はご勝手にどうぞとばかりに、取り出し口へと小さな缶コーヒーを吐き出す。
U西はポケットから小銭を取り出しつつ、おおい、と声を上げどたどたと駆け寄る。
続いてM野が小走りで追う。

「言うてくれれば、それ位買いますがな。
は、話の駄賃替わりやで。
受け取ってくれや、な?」
彼が精一杯の愛想笑いで、小銭を差し出す。
意外と素直にS海は手を差し出し、それを受け取った。
後ろでM野はそれを見て、おや、と首を傾げる。
普段というか、何時もの彼はこういう物を受け取る記憶が無い。
当人の言う通り、酔っているのだろうか。
――確かな違和感があった。
その違和感の正体を、M野は掴みかねている。

「なあなあ。
何で分かったんだよ」
程なく追い付いたA林の質問が飛ぶ。
酔っているとは言うが、矢張り普段と変わらない面持ちで彼は答えた。
「……クルマを運転するM野は兎も角。
飲めるはずのU西が飲まないからな。
……普段飲まないA林も、ある程度は飲めるだろう?
俺にだけ飲ませるって事は、……、何かあるな、と思っただけだぜ」
きっちり様子を観察されていた上に、鋭い指摘が飛んだ3人はうわぁ、と気まずい気持ちが沸き起こる。
――やっぱり酔ってねえだろコイツ?
――もっと飲ませた方がええんとちゃうか?
――どうやって切り出しましょう?
以心伝心、3人の心が不思議と1つに纏まった時、思わぬ助け舟が彼の口から発せられた。
缶コーヒーを飲み終えたS海は、回収箱に缶を投げ入れつつ、珍しく次の行先を言う。
「その話の前に――、だ。
追加の酒とジュースを買って来ようか。
このまま続けたんじゃ、話してる内に酔いが醒めちまう」



コンビニまで車を走らせ、5本ほど缶チューハイを買う。
全て500ml、アルコール度数が9%以上の物だ。
「俺は一応飲めるが、酒が美味いとは思わないな、度数とか言われても分からん」
「お前、割と度数高いのん飲むんやなあ。
知らんかったわ」
A林とU西が買って来たラインナップを見てほへぇ、と声を上げる。
「ええっ?
僕が知ってる限りは軽い方ですよ。
以前は65度のウォッカを、ストレートで飲んでるの見ましたもん」
「うぇえ?
俺も酒は飲むけど、65度って何や。
ストレートってそれ、飲みもんか?」
「まあ、普通は水割りにするモンだ」
顔を顰めるU西に、S海が自ら応えた。
「おうい、酒は良いから話してくれよ、エロい奴」
待ち切れないのか、A林が急かした。
「どんな話が望みだ?」
「こないだはリアル話だったからなあ。
今度はネットの話が良いぞ」

――ぷしっ、ぷひゅう
と気の抜ける音が車内へと響く。
「ん、待たせたな。
んじゃあ、始めっぞ。
相手の名前は竿役の『男』、相手役の『女』、後は『俺』で良いな」
「おう」
「いいぞお」
「楽しみですね」

「U西とA林がやってるあのゲームな、俺もやってるだろう。
少し前に、バグでチャットがおかしくなった事件があってな。
事件の内容はA林も、2人とも知っているだろう。
バグがあったのは一部のエリアだけだったが、俺のキャラはそのエリアに丁度居たんだ。
その時な、突然チャHが割り込んできてなあ。
普通はチームチャットだの、パーティチャットだの言う、区分けされた状態で、他人が見れない筈なんだがな。
その時は何故か、俺のチャットウィンドウに、他所のチームチャットのチャHの内容が表示されてた。
どっかの国のお姫様と黒衣の騎士の逢引きみたいな雰囲気だと思う。
そんな感じのが、ぽんぽん俺のチャットウィンドウに入り込んできたんだ。

男:おお、ひめ。
女:ああ、黒騎士様。
男:この日が来るのを楽しみにしておりました
女:さあ、供の者が来る前に、はやく
男:俺はうなづいた
男:俺はひめをお下押すと、胸をあけ両手でやさしくなで姦しす
男:それから姫の口に唇をぎゅっと押し付ける
女:ん、んむうっ
男:そして舌を入れれろれろしてなめ姦すた
女:濃厚で優しいキスに私は不覚にも感じ入ってしまった
男:姫の下をぺろぺろと舐め上げた後、ぺろぺろと舌をからめる
女:撫でられた胸にひくひくと力が入てゆき、その後びくんと全身が跳ね上がり、腰がひくひくと震える
女:騎士様……。
女:熱く潤んだ瞳で、私は愛しい彼を見つめる
男:あ、すいません
男:ちょっといいですか?
女:はい?なんでしょうか?
男:黒騎士です
女:?
女:えっと、どういう意味でしょうか?
男:騎士じゃないです
男:黒騎士です
男:次からきちんと黒、を付けて下さい
男:良いですか?
女:あ、はい

こんな感じでな。
チープ過ぎる語学力と言うか、表現力で、俺は既に萎えてたと思うよ。
ぶっちゃけ強いて言うなら、行間や台詞回しは女の方がまだまし、キチンと相手を考えた内容だと思うが。
竿役の方が見てて萎えるレベルなのは、同意だ」
「ありがちな設定やな」
「うん、もうちょっと設定捻れっていうか、頑張れよ」
「はは」
世間一般ではありがちな設定であるのか、3人の乾いた笑いが車内で反射した。
それを聞いて、S海は無味乾燥な返事を返す。
「ありがちな設定かどうかは興味ないぜ。
所詮は他人の趣味だしな。
俺も正直酒が入ってないとこのレベルのこんな話はしたくない。
それから事が進んでな、いよいよ本番かという時に、異変が起きた。

男:俺は姫の中に暑い欲棒をずぶりとおしこんだ
男:そして叩き付けるように何度も腰を振る
女:ああっ、黒騎士様!
女:私は愛しいひとの背に手を回し、強くしがみ付いた
男:え、ちょっと待って
男:何で処女じゃないんだ!
女:熱い……とても熱いです……。
女:私は思わず上ずった声を上げる
男:何やってんだ!
女:えっ?
男:凄く萎える!まるで売女みたいじゃないか!
女:ちょ、ちょっと落ち着いて下さい

突然、竿役が喚き散らして喧嘩を始めてな、何やってんだ、と。
当人たちは、一生懸命だから良いんだが。
傍から他人のチャH眺めるのは、こんな詰まらんものかと、心底思う。
偶にネットに流れてる有名プレイヤーの、チャHバックログなんかはもう、官能の為に読むというよりは、脅す為の道具、……だよなあ。
まあ、女役が竿役を落ち着かせて、話は続くんだ。

女:この間チャHしたじゃないですか?
女:それで今回はその続きかと思ったのです
女:その場合は処女だと設定おかしくなると思って
女:ごめんなさい
男:あっ、そうでした
男:こちらこそすみません
女:いえ
女:それでは、今回どうされますか?
男:じゃ、じゃあまた、今回初めての設定で
女:わかりました
男:おねがいしまう
女:続きどうぞ
男:はい
男:俺は姫の中に暑い欲棒をずぶりとおしこんだ
男:そしてじっと反応を見る
女:痛ッ!
女:ちくりと下腹部に痛みが走り、見ると赤いものが太腿をつたう

そこで少し間が空く。
喧嘩しない様に、お互い反応を量り合って確認しているんだろう。
しかし、この竿役に女役は、よく耐えてるな……、俺だったらもう排除に取りかかっている頃だぜ。
間が空いた後、女役がポツリと1つ、メッセージを送ったのが印象的だったが。

女:こんな感じでいいですか?
男:うん
男:そのまま続けて下さい

チャットにしては遅い反応で、返事が返ってきて。
こんな感じで再開された。
今話している俺、というか当時の俺は見ててすっかり冷めきってたと思う。
まあ何だ、言いたいことは分かるよ。
つか、プレイ内容位、最初に確認し合っとけよ、と思うのはお前達と同じく、だ。
わかるか?
……まあ当然、俺の言いたい事位は分かると思う。

因みに、端折っているが、竿役のメッセージは1つの文が何十回と表示されている、今回のバグでな」

そこまで話すと缶に口を付け、空になっている事に気付く。
振って残りが無い事を確認すると、袋から次の缶チューハイを取り出す。
慌てた様にU西が問う。
「おいぃ、お前酒、ぬるくないんか?
冷えてるの、買うてくるで」
「……別に構わん。
そうだ、それで俺は――」
友の気遣いに軽く感謝の意を返すと、缶をもう1つ空ける。
――ぷすっ、しゅわあああぁぁぁぁぁ
缶から、圧縮されたガスが抜ける音が車内へと響く。
ぐびりぐびり、とひと口にしては長い嚥下音を鳴らし、それから、再びS海が話の続きを語り始めた。



――――――――(3)――――――――



「――それで俺は、そいつ等に個別チャット送ったんだ。
そうしたらな、不思議と別の奴に繋がっちまう。
全く届いてない、届かないんだ。
M野に分かり易く言うと、皆で同時に通話してる最中に、他所の電話の音声が突然紛れ込んでくる、と言う方が分かりやすいか。
それで漏れてきた奴に、教えてやろうと電話かけたら、全然関係ない違う奴に電話が繋がる感じか?

勿論、普通はそんな事は起きない設計だろう。
完全に混線しているってヤツだな、システム側がおかしくなっているんだ。
それで偶々、俺のキャラの個別チャットにそいつ等の会話、この場合は仲間同士でエロい行いをしている、そういう設定のチャットが流れて来たんだな。
竿役の方が何度も表示されてうざい、あまりにもうざいから、チャットを送るが、届かないから諦めて、相方の方にな、チャット送った。
するとそっちはマトモな返事で、助かったよ。
時間が経ったら何故か酷くなって、他の奴のチャットまで流れてきてたからな、正直収集が付かない状態になっていたんじゃないか?
もしかすると、俺のチャットも流れていたかもしれん。
兎に角俺は相方に個別チャットして、事情を話して静かにさせる事にした。

俺:こんにちは
俺:初めまして
俺:ちょっといいですか?
女:始めまして。
俺:お話があります すぐ終わります
女:こんにちは。
女:はい。
俺:実はですね
女:どうぞ
俺:システムのバグでチャットが漏れているようです
俺:暫くは静かにした方が
女:えっ?
俺:ええ それでですね
女:すみません、本当ですか?
女:証拠はあるんですか。
俺:仕方ない
俺:あなた方 今チャHしていますよね
俺:それが私のログに何故か表示されてまして
女:すみません。
女:直ぐ静かにします。
俺:それで あなたの相方を静かに
俺:あなたじゃないです 相方の方が酷くて

実際どんな感じだったかを伝えると、こんな感じだ。
雰囲気位はつかめると思う。

男:うっ!もう出る!
男:うっ!もう出る!
男:そして俺はきもちいものを出す
男:そして俺はきもちいものを出す
男:うっ!もう出る!
男:びゅびゅーどくっどくっ
男:そして俺はきもちいものを出す
男:そして俺はきもちいものを出す
男:びゅびゅーどくっどくっ
男:びゅびゅーどくっどくっ
男:うっ!もう出る!
男:びゅびゅーどくっどくっ

竿役が悪い訳じゃないんだが、このバグのウザさが分かるか?
流れて来ている竿役のメッセージをコピーし、幾つか見せると、女役は信じてくれたよ。
信じざるを得ない内容、だったろうけどな。
実際はもっと酷い数、呆れる程の数が連発されていたんだが、思い出すのもウザいから端折ってる。
孤軍奮闘、竿役は暢気に誤字だらけのチャHを続けていたぜ。
バグで流れまくるログの中、俺は女役の返信を探すのを諦めて、俺の意志を伝える事だけに集中したんだ。

俺:これで状況は理解してもらえたかと存じますが
俺:そこで聖女様 あなたに お願いがあります
女:はい
女:なんでしょうか?
俺:ヤツを早く黙らせろ
俺:可及的速やかに だ!
女:はいすみません!
俺:この調子じゃこっ恥ずかしい台詞が何処に漏れてる事か
俺:お前の相方が萎えるエロ台詞何十と連呼してるからウザくて敵わん!
女:すみません!直ちに
俺:手綱位キチンと持っとけ と言っているんだ!
俺:返事はいい! 下手くそな台詞を一刻も早く黙らせろ!

これで俺の怒りが少しでも伝わってくれる、と思うが。
時間が経つとシステムが酷くなってきていた感じでな、他の奴等のチャットも混ざって来たし。
面倒だから纏めて伝えて、喋らないように伝えたが、こいつ、件の竿役だけは何故かなかなか止まらん。
相方が急に黙っているのには、気が付いている様だったがな。
女の胸をどうたらとか、口付けがうんたらとか、優しく語り掛けるとか、こうしてる間にも竿役のクサい台詞は連呼される。
気分がノっているのは良いが、黒騎士様とやらは相方の異変に少しは気付けよ、トロくせえ朴念仁が!
こっちのチャットログが流れっぱなしの中の対話なんだぜ。
全く、遣り難くて仕方ねえ。

女:ねえ
女:ちょっといい?
男:フフ、どうだった?
女:御免なさい、ちょっと黙って
女:話があるの
男:やっと帰って来たね、そんなに気持ち良かったのかな。
男:そう言って俺は、女の唇に優しくキスをしながら髪をなで姦した。
女:黙って
男:えっ? 突然どうしたの?
女:黙って
男:何、何かあったの?
女:黙りなさい!
女:黙って聞いて
女:今、あなたの会話、他所の人に見られてるかも
女:詳しい事は後で
男:えっ?
女:黙って!
男:ごめん
女:私もごめん、後で連絡するから
女:黙って
女:ログアウトするkaraとででくwsiku
女:ログアウトするから後で会いましょう
女:gomenn
女:ごめんね

この対話も本来は見えない筈なんだ。
でも俺の画面にはしっかり映し出されててな。
チームのチャットもバッチリ見えていたが、個別チャットも見放題とは恐れ入った。
まわす、で姦が変換される当たりでな、普段からかなりマニアックな文章打ち込んでやがるのが分かる。
端折ってるが、かなりお寒い男の台詞がバグで並ぶんだぜ。
頭が痛くて敵わん。
暫くしたら竿役が黙る、メッセージを入力しなくなったの意味だ。
一番うざいのがここで止まった、これで心労が大分減った気がしたな。
男が黙ってから、大分マシになった俺のチャットウィンドウにな、相手役が個別チャットしてきたんだ。

女:すみません、静かにさせました
俺:聖女様にお手数かけさせました事 深くお詫び申し上げます
俺:誠に申し訳御座いません 有難う御座いました
女:hai,新設に有難うござます
女:それであの
女:お話が
俺:システムからログアウトするよう勧告が出ています
俺:相方もログアウトさせた方が
女:すみません、お話が
女:もうさせました
女:あるんですけど
俺:今チャットしても 他所に漏れる可能性がある
俺:いい子だから今はログアウトするんだ いいね?
女:あの 聞いて下さい
女:はい
俺:漏れても良い対話では無い と思いますが
俺:どうですか?
女:hai
女:違います
俺:復帰した後 何かあれば聞きます
俺:ん いい子だ
女:はい
俺:それでは 聖女様 ごきげんよう
女:すいmsnまたあとで\-error-\(俺)はログインしていない為メッセージは届きませんでした\
女:お話しても良いでしょうか\-error-\(俺)はログインしていない為メッセージは届きませんでした\

俺が見たのはここまでだ。
意思の疎通が出来る内に、対話を進めてたら、システム側からログアウトするようにメッセージが来てな。
それから強制メンテナンスで、皆弾き出されたんじゃないか。
俺は、特に話し相手は居ないが、対話漏らしたくないから、話が終わったらすぐ落ちたよ。
後の事は知らん」

「あの騒ぎ、実はそんな事があったんやな」
「確かになあ。
俺等バグが無い別エリアに居たから、騒ぎに気付かなかったし」
一旦話が途切れ、同じゲームをやっているU西とA林が反応した。
話し手の彼は、空の缶を手放すと、もう1つチューハイを取り出し、プルタブを起こす。
――ぷすっ、ぷしゅるるるる
何度目かの聞き慣れた、圧縮されたガスが抜ける音が車内へと響く。
ごくごくと個気味良い音を立て、嚥下した後に話を進める。

「――良いか?
それからメンテが終わって、1日程明けてインした。
するとその女、待ってたんだよ。
インしてから暫くの間、ぼんやり街並みを眺めてると、そいつから個別チャットが来た。
俺の方が実はすっかり忘れててな。
一瞬何の話かと思ったぜ。

俺:何でしょうか?
女:あの、すみません
女:あの時の事
女:黙っていてもらえませんか
女:巨大掲示板とか、ねらーのひとたちには特に
俺:ふむ どうぞ
女:その
女:あの
女:親のカード番号とかは無理です
女:満足する額ではないかもしれませんが
俺:ふむ
女:貯金ならすこしあります
女:わたしの銀行の番号ならお渡しできます
女:お願いです
女:何でもします
女:何でもしますから
女:黙っていてもらえませんか

突然飛び出した親のカード番号とか、銀行の貯金とか、何でもするとか。
この女のキャラは、巨大掲示板に晒さないで欲しい、代わりに金を払う、と言いだすんだ。
相当思い詰めていた様子が伺えるが、一寸飛躍し過ぎてた気がする。
俺もチャHとは言え、ごっこ遊びに長々と付き合う暇はまるで無いし。
潔く、何処かの漫画のキャラみたいにな、きっぱり断った。

俺:話は分かりました
俺:でも 少し考えて下さい
女:hai
俺:俺は君達にその件で 何かを要求したかな?
女:していません
俺:そうだな その通り
俺:俺はこの件に大して関心が無い 金も要らん 脅迫する気もない
俺:誰かに話す事は無いだろうし
女:脅迫ってわたしそんなつもりじゃ
俺:例え話したとしても 君等が迷惑する様な方針は取らん
俺:ここまで 意味は分かるな?
女:hai
俺:これは全部偶然の出来事だ 君等も災難だったな
女:すみません ありがとうございます
俺:もう忘れていい
女:はい
俺:ん いい子だ
俺:それじゃ 今後顔合わせ辛いでしょうから 暫くログアウトしますね
女:hai

とまあ、俺はそのままログアウトしたという訳だ」



――――――――(4)――――――――



以上だ、の声で、長い話にピリオドが打たれる。
長い話をしながら、彼は3本の缶チューハイを飲み干していた。
そして更に、4本目の缶を開く。
――ぷしり、ふしゅううう。
缶に隙間が出来、気の抜ける音が、黙した車内の中に響き渡る。
すっかり常温に戻ってしまい、水滴が流れ落ちてしまった缶を傾け、ごぎゅりごきゅりと、半ば程まで飲み干し、S海は一息を付いた。

車内が静かだ。
皆、話に聞き入っていたらしい。
真っ先にM野が沈黙を破る。
「チャえっちですかあ。
そんな遊び方がネットであるなんて、知りませんでしたよ。
新しいなあ」
「感慨深い溜息をついている所すまんが。
ネットが出来て以来昔からある遊びなんだ」
「へえ、そうなんですね。
僕って、遅れてるのかなあ」
「お前はチャットとか、ネットの遊びをしないだろう。
一時期流行した、テレクラと似たようなもんだよ。
知らなくても全く問題無い」
S海の簡易な解説を聞き、へええ、と、より一層しきりに感心するM野。
「チャットが幾つか混ざってるって言ってましたけど。
他の人は、チャえっちしてなかったんですか?」
「残念ながら、な。
今の俺達のような、下世話な話は沢山流れてたが。
人が集まればどこでも同じか、と思ったよ」

「俺は偶然そんなものに繋がる、お前の方が凄いと思う」
ううん、と唸った後、A林は言う。
「い、いや、そんなん。
そんなん、どちゃしこやんか。
どちゃしこ」
U西は意味の分からない言葉を口にし、羨ましさを表現した様だったが、誰の理解も得られない。
「やってる当人達はそりゃ楽しいだろうさ。
だがな、見てる俺からしたら、普段なら見なくていい筈の、下手くそな文章の寒いお話を、バグで延々と見させられ続けんだぞ。
たまったもんじゃねえ」

「なあなあ、そいつら、今どないとるんや?」
「知らん。
あれから1度も会ってないし、一緒に遊ぶ事も無い。
それこそ言わば1夜限りの付き合いってやつだ」
「キャラはどんな格好してたんや?」
「それも分からん。
偶々エリアが一緒だったってだけで、近くで見てた訳じゃ無いからな。
そもそもMMORPGのチャHなんぞ、乳繰り合う動作は用意されて無いから、はっきり言って傍から見ても、キャラがぼーっと突っ立っている様にしか見えんぞ?
……夢を壊す様で悪いが」
ほお、そうなんですねとM野。
彼はAVのようなシーンが出来ると想像していたようだ。
違う違う、そうじゃないと、ネットゲームも遊ぶA林がフォローに入る。
「キャラの名前、教えて貰えへんよなあ。
お前昔からそういうの、ごっつうガード固い奴やもんな。
いや、すまんかった」
聞くだけ無駄と悟っているU西が、聞くのを諦める。

「何でお金受け取らなかったんですか?」
再度M野は口を開いた。
「相手から差し出し来ててもな、受け取った時点で脅迫になるんだよ。
脅してなくても、脅し取られたという主張を許す事になる。
このケースが正に最も例に近しい、と思う。
トラブルを避けたければ、その場で断るのが一番なんだ」
へえ、とM野が感心したような面持ちで続ける。
「流石S海さん。
お堅いですねえ」
「身持ちが固いんじゃない。
見ず知らずの相手と、後になって問題が起きた場合、俺は関係無いと言い切れる状態にしたかっただけだ。
俺がやった事はあくまで社会通念上での常識的、良識的な親切の範囲、そして金銭の受領は断りました、でそれ以上の追及は普通されない。
後の面倒事を避けたに過ぎん」
「なんや、そのまま迫って繋がらへんかったんか。
惜し事したんやな。
……俺やったら、金はええから俺ともチャHしてくれって、言うてまうんやろなあ」

その台詞を聴き、A林とS海が声を揃えた。
「お前も同じゲームやってるだろう?
そういう事に詳しいグループがあるが」
「おー、俺も知ってる!
何なら紹介しようか?
チャHだったら参加させてくれるかもよ」
「えっ!?
お、お前ら何でそんなグループ知ってるんや?
俺は知り合いにもそういうの、入りたい奴仰山おるんやけど、皆そんなグループ幻やて言うてるんやで。
探しても探しても、チャHやってる所なんて、何処にもあらへんかったのに」
「まあ、ヒトコトで言うと信用かなあ?」
君とは違うんだよ、君とは、と言った面持ちでA林は返し、続いてS海が頷く。
それを見たU西はと言うと、何とも言えない表情で顔を顰めさせた。

「俺は3つ紹介できるよ」
「俺の方は……2つだ」
「お、どこどこ?
一応聞きたい」
とA林が興味を示し、S海もそうだな、と言って情報交換に乗り出した。
「俺はギルドbeautysalon、月の海月、ロマンスグレートお嬢様、の3つ。
ランクは最初の奴から最下級~中級かな。
他もあるようだけど、探しても見つからなかったよ」
「俺の番か?
裸天女の羽衣、竜の卵、の2つだ。
ランクと言われても分からん」
「えっ!?」
「うへぇ、まじかいや」

ゲームをやっていない、ぽかんとしたM野を置いて、驚愕と羨望の視線がS海へと集まる。
「何だ?」
「俺は両方知ってる。
M野に分かり易く言うと、チャH好きは皆入りたがる、サーバー跨いで手厚い保護とアフターケアで有名な、超上級と、最上級グループ。
ジャンル的にその2つに参加出来れば、他のグループは要らないって言われてるんだよ。
S海お前なあ……、なんでそんなところ知ってるんだ……」
「片っぽ知らんのやけど、きっと俺が知らんだけなんやな。
いや竜の卵って、噂でめちゃ有名やん?」
「俺は噂など知らん、と言っている。
どうするんだ、そこの紹介権持ってるし、紹介が居るのか」
「す、すまん。
おおおお、俺も良いか?
卵の方は自身ないし無理そうだから、その、天女の方、いいかな?」
「後でサーバー名とキャラID送ってくれ」
「おお、ありがとう!
礼として今度何か奢るわ」
一つ、話が纏まると、今度は視線がU西へと集まった。
「まあ、後はU西だな」
「面倒を起こしたら、U西が摘まみ出されるだけだしな。
俺も構わないが、どうするんだ」
予想だにしていなかったタイミングで、突然のチャンスが舞い込み、慌てるU西。
その裏声での返答がこれだった。
「い、いや俺はその、な。
銭カネやのうて、もっと本格的な繋がりをやな……」
しどろもどろの返答を聞くと、顔を合わせた2人はにっこりと頷き、紹介を取りやめる事を決定した。

「俺は偶然、そんなものに繋がる、お前の方が、凄いと思う」
話が途切れると、もう一度言うけど、と断ったA林は、イントーネーションこそ違うが、再度同じことを言う。
「しかしなあ、チャHって。
俺もやりたいけど、誰も相手になってくれへん。
相手がおる、それだけでも羨ましいのに。
チャHやで、チャH。
チャットを場にして、エッチな事をするんや。
それを覗き見れるなんて、ホンマもんの、どちゃしこやでえ」
「それを言うなら。
僕は女性から何でもしますから、って言われる方が羨ましいですねえ。
そっちの方に興奮を覚えますよ」
好き勝手に話を評論するM野とU西。
「そうやなあ。
一度で良いから縋りつくオンナノコに、何でもしますて、言われたいもんやわあ」

「そうですねえ。
憧れのシチュエーションをS海さんに先に越されてしまった。
そういう事ですねえ。
僕らは悔しくて悔しくて仕方がないですよ」
わざとらしくM野が言う。
バックミラーでS海の方を見て、ニヤリと笑いながら。
それを見て彼も、不敵な笑みを返しつつ答えた。
「やってない事に手を広げてみるのもチャンスになる場合がある。
道端で風が吹くのを待ってるだけじゃ、チャンスを手にする機会を逃しているのかもしれんぞ」
「痛ったあ。
S海さんも結構言いますね」
バックミラーを通して、視線を交わした2人は笑い合う。
その横で、興奮したU西が大声を上げた。

「何でもしますて。
何でもしてくれるんやで、何でも。
うはあ!
これぞどちゃしこっていうもんやんか!
チャHで、いや普通の健全チャットでもええから、俺は言われてみたいもんや!
今、俺の中で言われてみたい言葉No.1やで!」
その言葉に呼応するようにA林も叫ぶ。
「俺は!偶然!そんなものに繋がる!お前の方が!凄いと思う!」
何度も言うが一言感想良いか?と彼は断り、A林は比較的大きな声で、己が主張すべき事を再び言った。
その主張に、諸手を挙げてM野とU西が賛同する。
「そうですねえ」
「せやせや、どんな偶然やねん、全く。
普通は見れへんチャット、しかもS海はチャHにご招待とか、それはもうエロエロしい神に愛されとるとしか思えへんわ」
ああ羨ましい、と3人の溜息が広がった後。
どっと4人の笑い声が車内を満たす。
――そろそろ時刻は、日を跨ぎ2時に差し掛かろうとしていた。



A林とS海は車を降り、帰路に就く。
助手席に乗り換えたU西はM野に送って貰うらしい。
「お疲れ!」
「お疲れ様でした!」
「おう、それじゃ皆、気ィ付けて帰れよ」
「またな」
「S海は帰ってもチャHやりすぎんなや!」
「はは。
また機会があれば別の事を話すぜ」
U西の軽いからかいに、S海は軽く返すと、小さく手を振って別れを告げた。
今日も何気ない様子で会合を終え、皆帰ってゆく。
……平穏だが、退屈な日常へと。



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